行ってみたやってみた
タデ原湿原(たではらしつげん)
命の洗濯を実感できる
すごい自然
2022.08.31
大分県由布市水分峠と熊本県阿蘇市一の宮をつなぐ通称「やまなみハイウェイ」。全長 58.9 ㎞のこの道は、日本百名道にも選ばれる日本屈指のドライブ・ツーリングルート。朝日台や長者原(ちょうじゃばる)、牧ノ戸峠と、絶景スポットがあり、地元大分に住んでいても、たまにドライブに来た際は、自然が作り上げた何とも雄大な絶景に、自然と表情が緩む。「自然ってすごい!」。
よく「命の洗濯」というが、ああ、まさにこれかと実感できる最高のルート。日頃のストレスが一気にふっ飛んでしまいそうな感覚になる。
その「やまなみハイウェイ」の中でもとりわけ心がほっこりするスポットが「タデ原湿原」。久住山、大船山、三俣山、硫黄山などからなる「くじゅう連山」を背景に、あたり一帯に広大な自然が広がる絶景スポット長者原(ちょうじゃばる)の一角に位置する。湿原と聞くと、勝手にジメジメしたイメージを思い描くのだけど、「タデ原湿原」は、観光地としてはもちろん、環境の面からも世界的に重要な場所。ホームページで調べると、 阿蘇くじゅう国立公園内にある中間湿原で、平成17年に坊ガツルと共に県内初のラムサール条約に登録。標高 1,000m の位置にあり、中間湿原としては国内最大級の面積を誇っている。マスガヤ、ミズゴケなど貴重な湿原植物が群生しており、野焼きにより湿原の維持が継続されてきた。木道の散策道が整備されており、四季折々の植物が見られ、「九重の自然を守る会」のメンバーによる自然観察会も行われているようだ。
難しいことは抜きにして、ラムサール条約に登録された地球的にもとても重要な湿原であることはよくわかった。
「タデ原湿原」の “スゴさ” は理解できたところで、どんな素晴らしいところなのか実際に行ってみた。
絶好のロケーション、吹き抜ける風の中、湿原に敷かれた木道を歩く。この木道は実に雰囲気がいい!鳥のさえずりと木道の「コツコツ 、コツコツ…」と奏でる靴音とのハーモニーが、とんでもなく心地よく自然の力に癒やされていく。自分で文章を書くとなると、主観的な事しか書けないので、現地のガイドさんにじっくり話を聞いてみた。今回お話をお聞きしたのは、「九重自然を守る会」のガイドのひとり、赤峰佐代子さん。
赤峰さん自身、長く九重に住んでいるが、自然との出会いは意外と遅く、52 歳の時に当時勤めていた学校の行事で山に登ってからその魅力に魅せられ、「九重の自然を守る会」に入会。山好きの人や花 好きの人が多く訪れるのを見て、「私はこの地に住みながら、何も知らない…」とショックを受けたことがきっかけで毎週日曜日に勉強会に通って九重の自然について勉強し、退職後は毎日のようにやって来ているとのこと。
赤峰さんたちは約 350 人からなる「九重の自然を守る会」のガイドの1人。 なるほど、人の手が入っていない自然を維持するには、多くの手間と時間がかかる。しかもそんな大変な作業を行う皆さんはボランティアだというから驚く。
「タデ原湿原」に入る前に、最初に気になっていることを聞いてみた。「タデ原の名前の由来ってなんですか?」すると赤嶺さん「『タデ食う虫も好き好き』ということわざがあるでしょ? そのタデという草が生えているからなのよ」なるほど、そのタデか。
この日は平日とあって、観光客の姿は少ないが、週末は家族連れや若い人が多く訪れるのだそう。
タデに始まり、青い球体の花が特徴のヒゴタイ、紫がかったかわいさのノハナショウブ、日当たりの良いやや湿った山野や湿地に生えるハルリンドウ、鶴が羽を広げた様子に見え、赤い実を付ける舞鶴草、枝先に多数の散形花序を出すハリギリ、山菜として食卓にも並ぶウド…。最初はついていけていたが、 勉強不足で途中からついていけず…。でも、とにかく理由なく楽しい。以下、メモを取った植物を書いていくと、よしずとして使われる多年草のヨシ、かわいい黄色い花をつけるリュウキンカ、ピンクのふんわりとした花をつけるシモツケソウ、茎の先に径4~6cmの 大形の黄花を付けるコウライトモエソウ、星形に開いた花を上向きに咲かせるヒメユリ、椿のような形に見える黄色い花を咲かせるキスゲ、夕方に咲き、朝にはしぼんでしまうユウスゲ…成長すると30~80㎝になる河川敷などでもお馴染みのチガヤ、湿原に多く見られるヌマガヤ、強い茎をもつチダケサシ、40~100㎝になり茎は下部が直立し、先はつる状になったアオタチカモメツル…。
他にも、まだまだ多くの種類の花、草、薬草、樹木などが。四季の湿原を彩るのだ。
これだけ多くの植物が群生するということは、観葉植物しか育てたことがない私が考えても、ものすごく貴重な場所であることがわかる。 赤嶺さんから説明を受けていると、県内からやってきたお二人が、「タデはどこにあるの」と尋ねてきた。お二人は植物に詳しく、ちょこちょことここに遊びに来ているのだそう。このありがたいガイドさんの説明を、私たちだけで聞くのはもったいないので、一緒に来てもらい同行。ちょっとした団体さんに。
湿原には小さな川が流れ、魚も生息している。清流にしか生息しないタカハヤとアブラメだとのこと。 大きすぎる自然の中で生きていく知恵を持ち、大雨で水量が多くなるとぬるっとした体を活かして、流されないように泥の中に潜ってやり過ごすのだそう。
もう少し歩いて行くと、プロカメラマンレベルの見るからに高価なカメラを持った若い男性に遭遇。聞くと、こちらの方も県内からで、お目当ては野鳥なのだとか。この湿原には、都市部にはない魅力がいろいろとあるのだろう。
2.5 ㎞、45 分の散策コースを歩き終え(今回はショートカットして半分の距離)戻っていると、今度は老夫婦に遭遇。話しかけると、学生時代以来なんと70 年ぶりに訪れたとのこと。 今は神戸に住んでいて、ずっと忘れられず、いつか行きたいと願い続けて半世紀以上ぶりの「タデ原湿原」。
感想を聞くと、「色んな所に行ったが、日本中探してもこんな場所は他にはない。70 年前と変わらない 風景で、やっぱり最高」と、嬉しそうに語ってくれた。 私自身も、幼少期に訪れて以来、ちょこちょこと訪れているのだが、本当に景観が維持されており、多くの人に守られていることがわかる。
すれ違う人は皆挨拶をし、話しかけると皆やさしく返してくれる。 これも「タデ原湿原」の優しさのなせる技なのだろう。
最後に「長者原ビジターセンター」へ。
阿蘇くじゅう国立公園くじゅう地域を紹介する博物展示施設で、館内では旬の自然の展示の他、 巨大衛星写真やハイビジョンシアターでくじゅうの四季の映像が見られる。
歩きすぎておなかがすいたので、
近くのレストハウスやまなみへ。
「九重“夢”ポーク 豚の生姜焼き膳」を注文。きめ細やかな肉質と柔らかくジューシーな美味しさが特徴のご当地豚なんだとか。噛むと肉汁が溢れ出して来て、ごはんが進む。
他にもスイーツやハンバーガーなどもあり、きれいな空気の中でカフェタイムも楽しめる。
最後にガイドの赤嶺さんに伝えたいことを聞いてみた。「たくさんの自然好きの人にタデ原湿原に来てほしいが、ただの観光地のようにはなってほしくない」という言葉をいただいた。「ここは、ガイドさんはもちろん、地域の人たちが大切に守っている大切な場所。 遊びに来るときはマナーを守って思い切り楽しんでくださいね。タデ原湿原の自然観察会を開いています。また、この湿原を一緒に守ってみませんか?」。
「九重の自然を守る会」では会員も募集しているそうです。
福岡市から約1時間半で、空気のキレイな別世界を楽しめます。
家族連れでの思い出づくりに、インスタでちょっと自慢できる写真を撮りに、手軽に最高の気分を手に入れられます。
また、周辺には温泉や宿泊施設、キャンプ場も多いので、上を見上げると満天の星空!
泊りがけで旅行を楽しんでみるのもいいかも。
タデ原湿原
住所:大分県玖珠郡九重町田野 225-33
TEL:0973-79-2154(長者原ビジターセンター)
営業時間:9:00 ~ 17:00(11 月~ 4 月 16;00 閉館)
休館日:12 月 29 日~ 1 月 3 日
駐車場:長者原公共駐車場、ビジターセンター駐車場・約 450 台
料金:無料(タデ原湿原、長者原ビジターセンターとも)
【タデ原湿原観光時の楽しみ方】
・街中暮らしでは味わえないむき出しの自然が楽しめますが、自然を守るためにはたくさんの人の努力が隠れていることを忘れずにお願いします。
【注意事項(マナー)】
・ラムサール条約に登録されている地球的にも重要な保護地域でもあります。ゴミは捨てない(持ち帰り推奨)、木道から降りない、草木や花を抜いたり摘んだりしないようにしてください
・楽しみ方は人それぞれですが、静かに楽しみたい人もいます。大騒ぎしないようにお気をつけください
【服装/季節】
・タデ原湿原は、標高1000mに位置しますので、福岡市や大分市などと比べると5℃以上低いことも少なくありません。時期にもよりますが、重ね着できるものを持っておいた方が良いかもしれません。冬季は凍結も多いですので、周辺道路状況などを確認の上、訪問してください
【アクセス】
福岡市 – タデ原湿原 1時間40分
福岡市博多区半道橋I.C – 九重I.C(九州横断自動車道/大分自動車道/長崎大分線 経由1時間11分)、
九重I.C – タデ原湿原(県道40号/県道621号経由)